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大森簡易裁判所 昭和36年(ハ)260号 判決 1961年8月08日

原告 岡田節子 外六名

被告 大久保愛蔵

主文

被告は原告に対し、東京都品川区西中延五丁目一、二一一番地所在、家屋番号同町九四番の二、木造トタン葺平家居宅一棟建坪十坪九合一勺につき、東京法務局品川出張所昭和二十七年五月八日受付第四九七四号をもつて、被告のためになした同年同月七日付売買予約に因る所有権移転請求権保全の仮登記の本登記手続をせよ。

訴訟費用は被告の負担とする。

事実

原告等訴訟代理人は、主文と同旨の判決を求め、その請求原因として、

一、原告等の先代岡田喜久治は、昭和二十七年五月七日その所有の東京都品川区西中延五丁目一、二一一番地所在、家屋番号同町九四番の二、木造トタン葺平家居宅一棟、建坪十坪九合一勺(以下本件建物という)を、代金七万円をもつて被告に売渡し、その代金を受領したので、同月八日その所有権移転登記手続のため右両者同道して所轄東京法務局品川出張所に赴いたが、被告の登記手続費用支出の都合上、やむなく前記建物につき同出張所前同日受付第四九七四号をもつて、被告のための同月七日付売買予約を登記原因とする所有権移転請求権保全の仮登記をなし、本登記手続は後日になすこととして、その登記手続に必要な一切の書類を被告に交付した。

二、前記喜久治は、昭和三十四年二月三日死亡したため原告等が相続によつて右登記義務を承継したので、被告に対し屡々右本登記手続をなすよう請求したが、被告は一向これに応じない。

三、そのため、前記建物の公簿上の所有名義は依然として亡父喜久治になつているので、爾来その公租公課等は悉く原告等に賦課されている。

四、よつて、原告等はこの不利益を排除するため、被告に対し、本件建物につきなされた前記仮登記の本登記手続をなすよう請求する。

旨陳述した。

被告は、適式の呼出しを受けながら、本件口頭弁論期日に出頭せず、かつ、答弁書その他の準備書面をも提出しない。

理由

被告は適式の呼出しを受けながら、本件口頭弁論に出頭しないばかりか、答弁書その他の準備書面をも提出しないで、原告の主張事実を明かに争わないから民事訴訟法第百四十条により被告はこれを自白したものとみなすほかはない。

そこで、本件の如き事実関係のもとにおいては、原告等にその主張の如き登記請求権があるかどうかは一箇の問題であるので、これにつき考える。

もともと、不動産登記は物権変動の公示方法であるから、いやしくも実体上の権利関係に符合しない登記が存在するときは、権利変動の当事者はこれを現在の権利関係に合致するよう是正すべき必要が生ずる。

登記は、登記権利者と登記義務者との共同申請にもとづいてなされるのを原則とするが、若し登記義務者が任意にそれに協力しない場合には、登記権利者は登記義務者に対し、登記申請について協力すべきことを訴求し得る権利、いわゆる登記請求権が実体法上の権利として認められている。

しかして、ここにいう登記権利者とは当該登記のされることによつて直接利益を受ける者を、登記義務者とはこれに対応して直接不利益を受ける者をいい、又登記をすることによつて直接利益を受ける者とは当該登記の記載上権利を取得すべき者を、反面不利益を受ける者とは当該登記の記載上権利を失うべき者を、それぞれ指すものと通常解されている。

しかしながら、当該登記をすることによつて直接利益を受ける者は必ずしも右に挙示した者に限るものではなく、右にいう登記義務者であつても登記を受けることにつき現実の利益を有することがある(例えば、登記簿上の所有名義を有することによつて、公祖公課等負担を課せられ、或は社会生活関係においていろいろな不利益を蒙ることも予想されるから、権利がないのに拘らず権利ありとして登記している者は、その登記を是正することによつて直接右の不利益を免れるという利益がある)から、かような者にも実体法的には登記請求権を有することを認めるべきであり、したがつて、登記請求権の当事者としては、実体法上は、いづれの当事者でも登記をすることについての利益を主張して登記を請求し得る者を登記権利者とし、他方を登記義務者として取扱うべきものと解するを相当と考える。

そこで、本件原告等の主張事実によると、本件建物については、昭和二十七年五月七日売買により原告等の亡父喜久治より被告にその所有権が移転したので、実質上の所有権は被告にあるのにかかわらず、登記簿上は依然として右喜久治の所有名義となつているため、同建物に対する公租公課等は悉く右喜久治の相続人である原告等に対し賦課され原告等はこれがため不利益を蒙つているというのである。

しからば、原告等としては右登記名義を真実の所有者である被告名義に是正することによつて右不利益を除去することができるものということができ、したがつて、本件建物につき被告名義に移転登記されることによつて原告等はまさに現実に利益を受ける当事者に該当するものというを妨げないから、被告に対し本件登記請求権を有するものと認めるを相当とする。

そうであれば、原告等の被告に対する本訴請求は正当として認容すべきであるから、訴訟費用の負担について前同法第八十九条を適用して、主文の通り判決する。

(裁判官 須田武治)

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